お知らせ
2017/03/28
ー2017年3月28日
1978年生まれのベルリンの画家加藤 竜は、作品の中で緊張関係にある人類と環境という広範囲に及ぶテーマに取り組む。一見するとどぎつい印象を与える絵画表現と共に彼は物語を語り、また陰鬱な終末のシナリオを描き、破壊的な人類による自然の扱いといったような時弊を直接的に非難する。この表現に対する欲求は、まず彼の絵画の題名の選択にはっきりと見て取れる。例えば、「人間の底にある悪」、「第4次世界大戦」、「モンスターとの闘い」など。加藤 竜の作品は考えを改めさせ、またはより意識した私たちの地球の限られた資源の扱いを促すための効果的な訴えである。
彼の色彩の強い絵画は、とても満たされた細かな表現と複雑な相互関係、重ね合わせられた表現豊かなモチーフを通し生まれでる。
動物や日常の対象物等の形態は、アイ・キャッチャーとして作用する。そしてその形態は、未知なものとまた抽象的な要素とが交じりあい、馴染みあり知られたものでもある。そのようにして彼は、観覧者を彼の陰鬱で秘密めいた世界に引き込む。
彼の作品には彼の師のダニエル・リヒターからの影響、そして絵画は社会的なものでなくてはならなく、芸術家は観覧者の目を通し物を見なくてはならないという、彼の姿勢の影響も見受けられる。自然と文化の対決、形態と抽象の入れ替わりというやり取りの中で、彼の模範のアルベルト・エーレンの影響も見て取れる。イェルク・イメンドルフからの影響は、政治的な日常の出来事への当てこすり、そしてそのことの絵画的解釈から見て取れる。芸術家としての姿勢を示さなくてはならないという事、社会的な責任をもたなくてはならないという事が加藤竜の自己理解に通ずる。
加藤竜の作品は過去から現在にいたるまで、彼の個人的な経歴を通じて決定的に特徴づけられている。
重要な影響要素は彼が日本出身という事、そして多文化都市のベルリンでアート教育を受けたことだ。彼の作品は、彼の少年期の伝統的な教育と、大人になってからの芸術表現の自由とがなす注目すべき交錯を映し出す。
この画家は、日本固有の特殊な自然とのなつながりというものを感じている。緊迫の場にある人間と環境に対する鋭い考察の深まりは、彼の故国をこの半世紀の間におそった、原子爆弾投下、自然災害、経済危機などにみられる大災害との論争の中だけで終わることはない。
加藤竜は、厳しい科学的な考えの世界と自由な絵画世界の間を行き来する旅人である。子供のころに数学的な才能を発揮し、囲碁のプロ棋士になるためにあるプロ棋士のもとで数年間の修行を通し囲碁を学んだ。彼は、その性質と論理上の様式における数字と抽象的な構造の考察に魅惑される。抽象的な数字の意味だけではなく、算出的な理解、空間的な相互関係の理解、平面と空間の幾何学、そしてまた算式の厳しさも彼を夢中にさせた。
画家としても彼は、描く基盤として明瞭な構造を必要とする。彼は算術の中で数字とその連結を扱う。数字はプロポーションの表現として彼の興味を引く。個々の要素の組み合わせが、何か新たな性質を持つ全体の印象を生み出すとき、芸術表現上で彼は数学へのアナロジーを見出す。
囲碁は、世界のもっとも古い戦術ゲームの一つである。このゲームは大変高度な戦略的、論理的な考えと視覚的な空間的表象感覚を要する。二人の対戦者はそれぞれ黒石、白石を盤上に置き、できるだけ多くの陣地を得ることを目的とする。より多くの盤上の陣地を制圧した者が勝ちとなる。プレーヤーは最後に勝利するために、総合的な盤面、そして全ての局部の部分的陣地も終始視野に入れていなくてはならない。この囲碁を打つのと同様に、アーティスト、そして碁打ちの加藤竜にとってキャンヴァスは盤面となる。多くは一見するとある要素の一端、そして空間的な部分組織を指し示し、互いに相互作用の中にあり、類なき仕方で高度な総合的現象を作り出す。囲碁の複雑性とアルゴリズムに対する親和性は、大変高度なものだ。このゲームのヴァリエーションの数は、チェスのそれよりも超える。もう何年も前からコンピュータプログラムがチェスの大家の実力をしのいでいるのに対し、囲碁のほうではあるソフトがようやく去年、インターナショナルトッププレイヤーに勝利する。それは、自ら発展していく機械の発展上の道標としてみられている。
「人間と自然」のテーマは、アーティスト加藤竜に作品の構成の中に流れ込むような強い感情を引き起こす。彼はアイデアの実行のために、直感と共に科学的傾向のある戦略的思考と計画を利用し、それは並外れた結果を生み出す。ますます大きくなる彼の作品に対する国際的な注目は、数多くの展示とアートフェア参加だけではなく、ダルムシュタット分離派芸術賞、岡山県立美術館の名高い芸術賞受賞にも見て取れる。
加藤竜の個展「終わりなき物語」は、現在ドイツのデュッセルドルフにあるギャラリー・ベンゲルシュトレーターにて5月8日まで開催中。ベルリンにあるドイツ環境保護団体でも、3月29日から来年4月2日まで「危機にさらされた環境」と題して彼の作品を展示される。
投稿記事 Irene Daum
記事の写真 アトリエでの加藤 竜 (写真 Irene Daum)
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